田中山田の蹴球日記

RealMadrid and Football ver 3.0

レアルマドリード期待の若手、ヘセ・ロドリゲスの活躍はフロック!!

フロック [fluke] とは

思わぬ幸運。まぐれ。偶然うまくいった事。

 

テニスって知ってますか?

「中国人が得意な競技?」それは卓球です。

「王子様?」それは漫画です。

フェデラー?」そうです。それです。

仮に僕とフェデラーがラリーをしたとします。フェデラーがラケットを振って、パコンと球を打つ。その球を僕が追いかけて打ち返したとします。ここです。この時、僕とフェデラーのポジションには違いがあります。

一体、何が違うのでしょうか?

 

僕とフェデラーの違い

フェデラーは一球ボールを打つごとにセンターに戻ります。なぜなら僕=敵が次に、どちらのサイドにボールを打つか分からないからです。ですからフェデラーは次の事を考えて一旦、中央=ニュートラルなポジションに戻ります。どちらのサイドにボールが飛んできても反応できるようにポジションを修正します。

一方の僕はフェデラーの球を一度、打ち返した事に満足して、その場に留まっているようです。その為、二度目のラリーでは逆サイドにボールを打ち込まれて、到底間に合う事が出来ませんでした。

 

テニスはトランジションの競技

テニスは非常に攻守が激しく入れ替わる競技です。サッカーの場合だと、例えばどちらかのチームがボールを持ち、パスを回して、ドリブルを仕掛け、そしてボールを失ったとします。その瞬間に、攻守が入れ替わります。一方でテニスは、パコンパコンと一球打つごとに攻守が入れ替わります。サッカーとは比べ物にならないぐらいに、攻守の移り変わり=トランジションの激しいスポーツです。さらにテニスのボールは小さく非常に速いスピードで飛んできます。サーブに至っては200㎞近くまで速度が出ます。よって一瞬のポジショニングミスとステップの踏み損ないが命取りになります。その為、ポジションの修正と、素早いボールに反応する為のフットワークがテニスにおいては非常に重要になってきます。テニスでは、この種のフットワークのひとつにスプリットステップと呼ばれるものがあります。

 

スプリットステップは、テニスのフットワークにおいて非常に大事な要素のひとつだ。これをきちんと行なう習慣がついているかどうかで、ボールに対する反応が大きく変わってくる。

 

(中略)

 

スプリットステップの意味は、まさにそこにある。相手がどこに打とうとしているのか、集中して「観る」こと、また同時に身体的にニュートラルな(前後左右どの方向にも動ける)状態を作るということが目的なのだ。

 

スプリットステップの理想としては、ジャンプして身体が空中に浮いている状態でボールの行方を見極め、着地時にはすでにどちらに動くかが決まっていて、沈みこんだ時点で、写真のように動く方向に対して力を出せるような沈みこみ方ができているということだ。

 

レッスン - テニス365 | tennis365.net - 国内最大級テニスサイト より抜粋、引用。

 

ここで重要なのは、飛び上がる=ニュートラルな状態=左右どちらにもでも動ける状態を作るという事です。左右どちらかの足に荷重が掛かっていると、素早く動く事が出来ない。すると反応が遅れる。反応が遅れると、ボールに追いつけない。ボールに追いつけないと相手にエースを決められる。エースを決められると、イラついてラケットを地面に叩きつけてしまう。キーッ!!悔しいっ!!バンッ!!ボキッ!!

ラケットが折れるのを回避する為には、攻撃を行った後で、すぐにニュートラルなポジションに戻る。そしてニュートラルな状態=万全の状態でボールを待ち構える。その後、ボールを打ち返して、相手のラケットを折る。

これはサッカーにおいても示唆的です。シュートを撃った後、ボケっとしてないで、ポジションに戻る。あるいはすぐに守備を行う。次の事を考えてプレーをする。そして正しいステップワークを行って敵に対応する。

ここまでは長い前置きでした。いよいよヘセの登場です

 

ヘセのドリブル

以下の画像は2014年2月5日に行われた国王杯、レアル・マドリードアトレティコ戦の前半42分50秒からのヘセ・ロドリゲスのプレー。

 

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ヘセは飛び上がる事で一度ニュートラルな状態を作り出す。DFからするとニュートラル=どちらの足で着地するのか分からない状態なので、それに対するDFもニュートラルな状態を保つしかない。そうやってDFを追い込んでから、着地と同時に、次のプレーに移る。よってDFは後手に回り、対応が遅れてしまう。

 

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これは前半37分に、ヘセが飛び上がった瞬間です。この時のヘセの姿勢を見てみます。両足が完全に地面から離れている。足のスタンスは肩幅。足は平行になっている。そして背中は真っ直ぐに立っている。頭は前に突き出ていない。ヘセの状態からは、彼が次にどのようなプレーを選択するのか推測する事は難しい。よってDFは後手に回る。

一方でDFの姿勢を見てみる。DFの両足は地面に接地している。背中は曲がっていて、深く腰を落としている。また頭が前に突き出て、足のスタンスは広い。完全に受け身に回っている。

この後ヘセは、先程とは違い右足で着地した後、右のインサイドでボールを持ち出します。それを見てもらいます。下の九枚の画像の中で、明らかに超バランスが良いのがひとつあります。誰が見ても分かります。そこが浮いている瞬間です。画像は、ヘセが飛び上がる少し前から始まります。

 

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どれか分かりましたか?

明らかにどちらの足にも重心が偏ってない画像がありましたね。そこから先は相手の様子を見たヘセが、自由に体重を置く足を決める事となります。こうやってスプリットステップによって強制的に先手を取る事が可能です。またスプリットステップの手順を踏むと、バランスよく左右に動くことができるので、DFが止まらずに突っ込んできた場合にも楽に対処する事が出来ます。

 

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CLのシャルケ戦。後半の38分。オレンジのユニフォームがレアルで左に攻めている。

 

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この時点では、ヘセがどちらにターンをするのか全く分からない。

 

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左足を上げた。左にターン。

 

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現代サッカーは基本的にカバーの連鎖のなので、その仕組を逆手に取ればパスを受けやすい。相手が絞るタイミングでロナウドのようにサイドステップを使って離れると、相対的に距離が取れる。

 

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ヘセはバランスを崩すことなく、簡単にDFを交わした。一方でタックルに失敗したDFは大きくバランスを崩している。ヘセが次のプレーへと無理なく移行しているのに比べて、DFは大きく遅れを取っている。

 

偶然か?まぐれか?フロックか?

 

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ヘセが飛び上がった瞬間。全て異なる時間、異なる状況、異なる相手に対するプレーだ。偶然に起きたプレーではない。

 

スプリットステップ

スプリットステップの手順を踏むと、選択肢をギリギリまで確保できる。さらにはバランスが保たれているので咄嗟に動く事も出来る。少なくともヘセは飛び上がった後に

  1. 左足で着地した後に、右足のアウトでボールに触れる。
  2. 左足で着地した後に、右足のインサイドでボールに触れる。
  3. 右足で着地した後に、右足のインサイドでボールに触れる。

このようなプレーを頻繁に行う。また着地した直後にボールに触れるのか、あるいは着地と同時にボールに触れるのかによっても違ってくる。これらは全てが同一のモーションから繰り出される。その全てにDFは対応しなければならない。しかし着地の寸前までは、何が起きるのかを知っているのはヘセだけだ。

バスケットの国、アメリカ

バスケットボールでは、このスプリットステップと似たようなステップがある。それをジャンプステップ=ワンカウントステップと呼ぶ。

 

Learn the Basic Offensive Basketball Skills

 

(対訳、補足も含む)

バスケットボールの基礎を学ぼう。

 

Before you can become a master at dribbling, shooting or passing, you must be able to move around the court quickly and efficiently. The basic offensive skills are being able to change directions, accelerate and stop suddenly while staying balanced.

 

ドリブルやシュート、そしてパスを学ぶには、効果的に素早くコート上を動き回る術を知らなければならない。その為には、バランスを保ちながらも、急激に方向転換をしたり、止まったりする事が重要だ。

 

Keep your head directly above the midpoint between your feet with your chin up.This helps keep control because the weight of your head alone can throw you off balance. 

 

まず顎は上げる。頭の位置は両足の中間に置く事が重要だ。頭が不安定だと、その重さによってバランスを崩してしまう。

 

You should be in a slightly crouched position and relaxed, ready for a move in any direction. Stay on the balls of your feet with your weight spread evenly over both feet. Keep your feet spread at about the width of your shoulders.

 

様々な方向に動く為には、体の力を抜いて、わずかに屈む事が重要だ。両足は肩幅ぐらいに開き、そして体重を両足に、均等に置く。

 

When stopping abruptly, there are two methods to use so you end up in a good, balanced position. With the jump stop, you jump off one foot and land on both feet at the same time in a parallel or staggered stance. With the stride stop (or one-two stop), you land on one foot. Keep your head up and centered over your body as you land with your knees bent. Don’t bend at the waist (keep your back pretty straight) and maintain a wide base for support.

 

バランスを保ちながら止まりたい場合には、2つのステップがある。それがジャンプステップ=ワンカウントステップとストライドステップ=ツーカウントステップだ。ジャンプステップは、まず片足で踏み切り、そして両足で同時に着地をする=ワンカウント。この時は足を平行にして着地する。一方でストライドステップは、片足で踏み切り、まずは左右どちらかの足で着地する。その後、残った足で着地する=ツーカウント。着地する際は、膝を曲げて、頭を上げる。しかし腰は曲げずに、しっかりと立てる事。その際、頭は体の中心に置く事を忘れるな。バランスを崩してしまう。

 

 Basic Offensive Basketball Skills - Discover the Fundamentals より抜粋、引用。

 

一度に着地するから=ワンカウント。着地を二度に分けるからツーカウント。今回は取り扱いませんが、ここに書いてあるツーカウントステップの運用が上手い選手がロッベンです。十分に速度が出ている場合に、ビタっと一度で止まろうとすると、バランスを崩しやすい。サッカーでも急激な切り返しを行おうとした選手が、バランスを崩して、DFにボールを取られてしまう状況が非常によく見受けられます。ロッベンも急激なターンをします。しかし彼はバランスを崩しません。なぜならロッベンは、このツーカウントステップの高度な使い手だからです。前進方向への速度を上手く殺すようにステップを踏みながら、地面に接地する足の場所を変えてターンを行います。よって、急激なターンを行ってもバランスを崩すことなく、次のプレーへと繋げる事が出来ます。

モドリッチイニエスタ、あるいはディマリアやロッベン、そしてメッシという選手はステップワークが巧みなので、バランスを崩すことなく、相手を崩す事ができます。逆に頻繁にバランスを崩す選手は、自身の体重移動とステップの噛み合わせ方が下手な選手だと言えます。

 

テニスとバスケとサッカー

それぞれの競技の特色により、同じステップであっても運用方法は異なります。テニスは速いボールを捕まえる為に出来る限るニュートラルな状態を保つようピョンピョンと何度も軽くステップを踏みます。サッカーではDFやGKが、よくこの動きを行っています。攻撃においては、ヘセのプレーのように軽く飛ぶのか、あるいは強く飛ぶのか、状況に合わせて変更します。またバスケットでは、軸足が自由に動かせないので、両足で着地する事が重要になってきます。サッカーでは着地する足よりも、足元のボールにフォーカスする事が重要になってきます。

様々な競技の特色を知る事で、沢山の帆を張り、追い風を受けて前に進む事が出来ます。

 

レアル・マドリードの新星ヘセ・ロドリゲス

若く有望なサッカー選手の将来を予測する事は不可能です。厳しいサッカーの世界では、十年後に振り返ってみると「デビュー当時がピークだったな」というような選手ばかりです。サッカーの事、サッカー以外の事、様々な要因によって将来は決定されるので誰にとって不確定です。

ヘセの5年後の姿は僕には分かりません。レアル・マドリードでラウルのようにプレーしているのか、あるいはどこか他のクラブでひっそりとプレーしているのか。

未来は誰にも見渡せません。しかし現在のヘセの姿を見極める事はできます。現在のヘセのプレーは、その若さによる勢いや、フィジカルに任せた力頼みのプレー、あるいは“コンディション”や“運”という散発的なものによって支えられているのではなく、しっかりとした技術に裏打ちされたものである事が分かります。ヘセは、今回紹介したプレー以外にもドリブルやトラップ、シュートにおいて、正しいと思われる技術=成功している選手と似たようなプレーを行っています。

よって少なくとも、現在のヘセ・ロドリゲスのプレーを見る限り、その活躍はフロックではない。

 

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目指せラウル!!追い越せクリロナ!!カンテラの星、ヘセ・ロドリゲス!!あとヘセの何に1番驚いたかって「お前、子持ちだったのかよ」って事!!

さようなら!!

サッカーと浮く事

蹴球計画 ~スペインサッカーと分析~

長い。だが一見の価値あり。